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広島高等裁判所 平成元年(行コ)3号 判決

控訴人(附帯被控訴人。以下、「控訴人」という。)

広島県知事

竹下虎之助

右指定代理人

原伸太郎

外六名

被控訴人(附帯控訴人。以下、「被控訴人」という。)

仁井田教一

主文

本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

(控訴の趣旨)

1 原判決中、控訴人の敗訴部分を取消す。

2 被控訴人の次の請求を棄却する。

控訴人が被控訴人に対し、昭和四四年七月七日付でした、原判決別紙目録(一)、(二)に記載の土地についての換地処分に伴う清算金決定処分の取消請求

3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(附帯控訴の趣旨に対する答弁)

附帯控訴を棄却する。

二  被控訴人

(控訴の趣旨に対する答弁)

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

(附帯控訴の趣旨)

1 原判決中、被控訴人の敗訴部分を取消す。

2 控訴人が被控訴人に対し、昭和四四年七月七日付でした、原判決別紙目録(三)ないし(五)に記載の土地の借地権についての換地処分に伴う清算金決定処分を取消す。

3 控訴人は、被控訴人に対し、金九二九万三四二五円を支払え。

4 附帯控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  主張

当事者双方の主張は、次に訂正、削除、付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正、削除、付加

1  原判決四枚目裏一〇行目に「復利計算」とあるのを「複利計算」と、六枚目表五行目に「本件従前の土地(一)、(二)」とあるのを「本件従前の土地(三)ないし(五)」と、同枚目裏三行目に「したがって」とあるのを「そして」と訂正し、七枚目裏一行目の「のうち」から同二行目の「その余」までを削除し、一一枚目裏一行目から二行目にかけて「売買実例等に基づき、各評価員の算術平均値を」とあるのを「売買実例等に基づいた各評価員の評価額の算術平均値を」と、一二枚目表末行に「機会的」とあるのを「機械的」と、一四枚目裏一行目から二行目にかけて「確定したものとしていた」とあるのを「確定したものとして生活ないし権利関係を生成、発展させていた」と、一五枚目表六行目から七行目にかけて「この逓減率を土地評価基準一七条及び同条の二のように定めて」とあるのを「土地評価基準において、奥行価格百分率として定め(同基準一七条及び同条の二)」と、同枚目裏二行目に「その率は、土地評価基準一九条によった」とあるのを「これを土地評価基準において、「側方路線影響加算率」として定めた(同基準一九条)」と、一七枚目裏四行目から五行目にかけて「本件土地区画整理事業換地準則一一条で定めた加算地積」とあるのを「、当該宅地が接する道路幅員に応じた加算地積(本件土地区画整理事業換地準則一一条)」と訂正する。

2  一九枚目裏二行目の「別表2及び3」から四行目末尾までを「別表3及び後記(三)に、従前の土地の評価は、別表4及び後記(二)に各記載のとおりである。」と、二一枚目表六行目に「別表2」とあるのを「別表3」と、同末行に「9.37816」とあるのを「9.3846」と、同枚目裏六行目から八行目までを「奥行価格百分率9.3846は、土地評価基準の奥行価格百分率表中の乙率(上級の商業地、住宅地に適用されるもの)の欄を適用したが、右表には奥行間数9.76間に対応する値が示されていないので、奥行九間と一〇間の値から次のように換算した。すなわち、同欄の奥行九間及び一〇間の奥行価格百分率は、それぞれ880.11及び956.89であるから、奥行間数9.76間の奥行価格百分率は、880.11+(956.89−880.11)×0.76=938.4628となり、これを一〇〇で除すると約9.3846となる。」と、二二枚目裏一行目の「根拠」を「原則」と、同二行目に「実作業は」とあるのを「実作業においては」と、二三枚目表五行目に「路線指数」とあるのを「路線価指数」と、二四枚目表三行目から同枚目裏一行目までを「奥行価格百分率9.3846については前記のとおりである。」と訂正する。

3  二四枚目裏末行の「別表6及び7」から二五枚目表二行目までを「別表7及び後記(四)に、従前の土地の評価は別表8及び後記(二)に各記載のとおりである。」と、二七枚目表二行目に「別表6」とあるのを「別表7」と、同七行目及び一〇行目に「12.94973」とあるのをいずれも「12.9480」と、同枚目裏三行目に「三角地」とあるのを「三角形地」と、二八枚目表五行目に「12.94973」とあるのを「12.9480」と、同六、七行目を「土地評価基準の奥行価格百分率中の乙率の欄を適用したが、右表中には奥行間数14.88間に対応する値が示されていないので、奥行一四間と一五間の値から次のように換算した。すなわち、同欄の奥行一四間及び一五間の奥行価格百分率は、それぞれ1237.56及び1302.60であるから、奥行14.88間の奥行価格百分率は、1237.56+(1302.60−1237.56)×0.88=1294.7952となり、これを一〇〇で除すると約12.9480となる。」と、同末行に「三角形地口」とあるのを「三角形地ロ」と、同枚目裏八行目に「三角形地逓減率」とあるのを「三角形地逓減百分率」と、三〇枚目表二行目に「根拠」とあるのを「原則」と、同三行目に「実作業は」とあるのを「実作業においては」と訂正し、同一〇行目、同枚目裏三行目の各末尾に「円」と付加し、同五行目に「三価形地」とあるのを「三角形地」と訂正し、同六行目の末尾に「円」と付加し、同八行目に「17.902」とあるのを「17.2902」と訂正し、同九行目及び三一枚目表一行目の各末尾、同五行目の「三五」の次、同八行目の「四八二万一四一四」の次にいずれも「円」を付加し、同九行目に「となる」とあるのを「となっている」と訂正し、同枚目裏四行目の「〇」の次に「間」を付加する。

二  当審における控訴人の主張

1  清算金算定の基準時を工事概成時とし、現実に清算金が徴収・交付されるのがその基準時とは異なる場合においても、仮清算をするかどうかは施行者の自由裁量に属するものと解すべきであり、仮清算を実施しない場合に、右基準時から現実に清算金が徴収・交付される時点までの法定利息額を清算金に付加するかどうかも施行者の裁量に委ねられているものと解すべきである。

すなわち、

(一) 法一〇二条一項の文言上も仮清算を実施するかどうかは施行者の裁量に委ねられており、仮清算が実施されなくても法九四条に定める要件が充足されたときには清算が行われることが保障されているし、仮清算を実施するかどうかは、施行者において事業の進行程度等、諸般の事情を考慮したうえでないと決定し難いものである。

また、本件土地区画整理事業においては、工事概成時点で、その後数年内に工事が完了する見通しであったため、仮清算の必要は認められなかっただけでなく、事業が大規模なもので仮清算のための事務量が膨大なものになると見込まれ、これを実施すればかえって換地処分の実施が遅れかねないと判断されたため、事業を可及的に早期に完了させることを優先させて、仮清算を実施しなかったものである。

(二) また、法は、清算金評価時点と換地処分時点との間に時間的な隔たりがある場合の時点修正については何らの規定も置いておらず(清算金の分割徴収又は交付については、法一一〇条二項、同法施行令六一条一項がある。)、時点修正を予定しているものとはいい難い。

宅地の利用増進の不均衡は、工事概成時において事実上表面化するものの、法的にその不均衡が顕在化するのは、法一〇四条七項の規定によって換地処分の公告がなされた日の翌日からであり、このため、法一一〇条二項、同法施行令六一条一項は、それ以降に清算金を分割して徴収又は交付する場合には、利息を付さなければならないとしているのである。

これに反し、換地処分の公告の日以前においては、未だ清算金の交付又は徴収に関する権利義務が顕在化しておらず、清算金評価時点と換地処分時点との間に時間的な隔たりがある場合にも、利息の問題は生じないと考えられることから、法は利息に関する規定を置かなかったものと解される。

もっとも、交付する金銭が損失補償の性格を有する場合には、法に規定がなくとも利息を付さなければならないものと考えられるが、本件における清算金は、換地相互間の不均衡を是正する目的を有するものであって、そもそも損失補償の性質を有するものではないから、利息を付するべきものとはいえない。

2  また、現に、本件区画整理事業と同様に全国で行われた戦災復興土地区画整理事業における清算金の取扱は次のとおり(対象事業数一〇二地区のうち、控訴人の調査に対して回答のあった六五地区及び広島県で実施した三地区の計六八地区についてのもの。ただし、一地区のうち複数工区で利息への対応が異なるものがあること等から、件数と調査地区数とは一致しない。)であり、仮清算金制度を利用したか、清算金に利息を付したかどうかは、まちまちであって、とくに本件換地処分時である昭和四四年八月一九日以前に換地処分を行った事業四三件に限ってみると、仮清算制度を利用したものは三件、清算金に利息を付したものは六件であって、そのような扱いが大勢を占めていたとはいえず、各事業の施行者である行政庁が、事業の進行状況などの諸般の事情を考慮したうえで判断している。

(一) 仮清算制度について

ア 利用した・・・七件

イ 利用しなかった・・・五五件

ウ 不明・・・九件

(二) 清算金に利息を付したかどうかについて

ア 清算金に利息を付したもの

・・・二〇件

イ 清算金に利息を付さなかったもの・・・四二件

ウ 不明・・・九件

3  さらにいえば、人類史上最初の原子爆弾による未曽有の被害を被った広島市においては、本件区画整理事業は、膨大な事業地区を対象としながら、担当職員及び資材の不足という非常に困難な状況下で、早期完成が至上命令とされていたのに比し、当時の担当職員のうち、清算金の算定等の事務に携わった人数は一〇名を越えたことがないのであって、そのような人数で仮清算を行い、さらに清算事務を行うことは、物理的にみても不可能であった。

また、土地区画整理事業を実施するに当たっては、施行者の恣意を排除するために、事業の施行区域内の宅地所有者及び宅地について借地権を有する者並びに学識経験者によって構成され、換地計画、仮換地の指定、減価補償金の交付に関する事項について法に定める権限を有している土地区画整理審議会の設置が義務づけられているところ、本件土地区画整理事業について設置された右審議会においては、仮清算金制度の利用や清算金に利息を付すべきであるかどうかについては、ほとんど議論の対象となっていないのであって、事業施行地区内の地権者等を代表する右審議会委員においてすら、清算金に利息を付する必要性についてはほとんど関心がなかったといえる。

右のような事情からすれば、本件土地区画整理事業において、清算金に利息を付さなかったことが違法とはいえない。

三  当審における控訴人の主張に対する被控訴人の認否

いずれも争う。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一当裁判所も、被控訴人の本訴請求は原判決主文一項の限度で理由があり、その余の請求にかかる訴えはいずれも不適法であると判断するもので、その理由は、次に付加、訂正するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三四枚目表四行目の次に行をかえて次のとおり挿入する。

「まず、控訴人の本案前の主張1について判断する。」

2  原判決三五枚目表四行目に「添付されていたこと」とあるのを「添付されていたが、本件第二処分については何ら言及されていなかったこと」と、同七行目に「不服を補正する旨記載され」とあるのを「不服内容が記載され」と訂正し、三六枚目表三行目に「認められる。したがって」とあるのを「認められるが」と、同八行目の「そうすると」から一〇行目末尾までを「そして、右処分の取消しを求める被控訴人の訴えは、昭和五三年九月一八日に提起されたことが記録上明らかであって、右訴えは、行政事件訴訟法一四条一項に定める出訴期間経過後のものであるから、右訴えについては原告適格について判断するまでもなく、この点において不適法であることを免れない。」と訂正し、同一一行目の冒頭に「なお」と付加し、同枚目裏三行目の「主張する。」から九行目末尾までを「主張するが、被控訴人が右のように考えていたものと認めるに足りる証拠はなく、かえって前記認定の事実からすれば、被控訴人は、換地処分全体の取消しと本件第二処分の取消しとは別個のものであると認識していたものと推認でき、被控訴人の右主張はその前提を欠くものである。」と訂正する。

3  原判決三七枚目表四、五行目を次のとおり訂正する。

「 被控訴人は、本件第一清算金決定処分について種々の違法事由を主張するところ、請求原因3の(一)ないし(六)については、直ちにそのような違法事由があるとは認め難いし、額の当否はともかくとして、本件第一換地処分に伴い被控訴人に交付すべき清算金があることは、控訴人の認めるところであるから、まず同(七)(清算金算出の基準時)及び同(八)(清算金に利息を付すべきであるとの主張)について検討することとする。」

4  原判決三七枚目表七行目の「都市計画区域内の土地」から一〇行目の「ものである」までを「都市計画区域内の土地について、土地の区画形質を変更し、公共施設を新設又は変更することによって、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図り、もって健全な市街地を造成して公共の福祉の増進に資することを目的とするものである」と訂正し、同枚目裏末行から三八枚目表一行目にかけて「平等に還元されるような換地処分」とあるものを「平等に還元されて、各宅地の利用価値増進の度合いが一様であるような換地処分」と、同七行目の「しかして」から末行の「還元すべきである」までを、「そのような場合には、各宅地の利用価値の増進というものは、従前の各宅地がその地積等の価値に応じて事業に寄与した結果生じたものであるから、その不均衡を是正することが公平の原則にかなうものである」と訂正する。

5  原判決四〇枚目表八行目に「工事概成時を」とある前に「原則として、」と付加し、同枚目裏一行目から八行目までを次のとおり訂正する。

「 もっとも、土地区画整理事業の施行者が仮清算を実施するか否かは施行者の裁量に委ねられていることや、工事概成時から清算時点までに必然的に時間的隔たりがあると考えられるのに、法がその間の調整について特別の規定を置いていないこと等にも照らすと、仮清算しなかった場合においても、その事業の規模、内容、経過等にかんがみ、工事概成時から換地処分時までの期間の経過がそれほど長期にわたらず、かつその期間の経過がやむを得ないものであると認められる事情のあるような場合には、必ずしも清算金に法定利息を付する必要のない場合もあるものと解されるところ、原子爆弾による被害を受けた地域の戦災復興という本件土地区画整理事業の性格やその規模等からして、その事業遂行、ことに清算金算定作業には種々困難な面があったことは推察するに難くなく、さらに〈証拠〉によれば、全国における戦災復興土地区画整理事業における清算金の取扱は、当審における控訴人の主張のとおりであることが認められるけれども、そのような点を考慮にいれてみても、本件第一処分により清算金が決定されたのは昭和四四年七月であって、工事概成時、すなわち清算金算定基準時から右清算金決定時まで、実に一四年以上も経過している本件においては、清算金算定基準時における額をそのまま清算金額とすることは余りに公平を失するものというべきであり、本件第一清算金決定処分は、その間の法定利息額相当分が付加されていない点において違法であるといわざるを得ず、以上の認定、判断を左右するに足りる主張、立証はない。」

6  原判決四〇枚目裏九、一〇行目に「判断するまでもなく」とあるのを「詳細に検討するまでもなく」と訂正する。

二よって、原判決は相当であって、本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用、附帯控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官森川憲明 裁判官八丹義人 裁判官小西秀宣)

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